部族の毛織物<技法>

遊牧民の毛織物には、非常に多くの技法があり、様々な研究がなされています。ここでは、絨毯やラグなどに見られる様々な織りや刺繍の技法について、解説をしています。
ただし、技法については研究不足な部分も多く間違っていていたり呼び名が違っていることもあるかもしれません。
技法については、かなりの専門的な研究者や研究書も出版されているのでそちらも御紹介してゆきたいです。
今回の説明で特に参考にしたのは、アトランタに住む織物研究家Marla Mallettさんの『Woven Structures 』です。
これは遊牧民族の毛織物の技法をほとんどカバーした研究書です。


トルコ結び=ギョルデスノット対照結び)

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縦糸に結ぶパイル(起毛状の糸)の絡め方が対称なものをギョルデスノットと呼んでいます。ギョルデスはトルコの古い町で、お祈り用のミフラーブデザインの絨毯が有名です。中国段通の何十段とか、ペルシア絨毯で1cm四方にいくつ結び目があるとか気にしますが部族絨毯では結び目の数はあまり関係はありません。しかし19世紀から20世紀始めのトルクメンのテッケ支族のものは縦方向に驚くべき詰まった絨毯が見られます。ノット数でいえば、トルコ西部のヘレケのシルク絨毯が有名で、1cmに24x24=576ノットという人間業ではないようなものがあるそうですが、これはもちろんトルコ結びだそうです。また、イランでもタブリーズなどの産業用絨毯の栄えた地域では鈎針による対照結が行なわれています。欧米で人気のコーカサス絨毯、トルコの村の絨毯、19世紀のトルクメン絨毯「ギャッベ」で有名なトルコ系遊牧民カシュガイ族もトルコ結びです。世界で最古のほぼ完全な形で残ったパジリク絨毯もこの対称結びだといわれています。発掘された当時は文様が同時代のアケメネス朝ペルシアのペルセポリスのレリーフに似ていることからペルシア系の人たちが織ったものではないかと考えられていましたが、最近では結び方が対称(トルコ結び)なことや中央ユーラシアの草原を支配した、スキタイ族の影響などが見直されおそらく中央アジアで織られたのではないかという説が有力になっています。

ペルシア結び=セネノット  (非対称結び)

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縦糸に結ぶパイル(起毛じょうの糸)の絡め方が非対称なものをペルシア(セネ)ノットと呼んでいます。     セネとはイラン北西部の毛織物の盛んな町で現在はサナンダジと言う名前に代わってています。昔の呼び名がセネでカジャール朝に栄えた歴史のある場所です。 皮肉なことに最近はは細かい曲線的な綴れ織りキリムのほうが有名です。深い藍色と赤のコンビが美しい由緒ある伝統的な絨毯も織られていました。 有名なペルシア絨毯や最近のトルクメン絨毯インドのムガール絨毯などがこの技法で織られています。 右開きの非対称結びと左開きの非対称結びがありますが、多くの都市工房のペルシア絨毯は右.絨毯の国と云われるトルクメニスタンでは左開きで結ばれているということです。部族絨毯では、バルーチ族や多くのペルシア語系の遊牧民はこのセネノットを使っています。断片しか残っていないのであまり知られていませんが、パジリクと同じ南シベリアのバシャダルという場所で、この非対称結びの絨毯片が見つかっています。 研究者によれば、パジリクより200年ほど古くこれが世界最古ということです。また、一枚の絨毯に両方の技法が使われることがあります。 一部のトルクメン絨毯には、ほとんどがペルシア結びなのに両脇1cmぐらいにだけトルコ結びが使われているものがありました。 ちなみに,日本の迎賓館で使われた特注の手織り絨毯がこれと同じ端だけ対照結びという話をきいたことがあります。もしかしたらトルクメン絨毯をそっくり真似たのかもしれません。

チベット結び

チベタンラグともいわれるチベット高原の手織り絨毯は他にはない特色の結び方です。セネ(非対称)結びの変形ですが、棒を使いループを続けて絡めていくという方法です。結び糸を結ぶたびに切る手間が省けます。 もちろんループはあとで切りそろえられます。色糸を一本づつ変えるようなデザインには不向きでしょうが、無地の多いものには効率的です。結び目も綺麗に揃います。

ベルベル結び

北アフリカモロッコの内陸からサハラ砂漠へ向かうアトラス山脈で、遊牧生活するベルベル族に多く使われる、対照結びの変形の八の字のような特殊な結びです。モロッコというと,暑い国のイメージがありますが標高が5000メートルに近いアトラス山脈の高地は毛足のある絨毯や目の詰まった毛布のような毛織物は必需品です。少し毛足の長いベルベルノットは平織と組み合わされても使われることが多いです。 その他に中央アジアのアラブ系部族のジュルキュール(熊の毛)というパイルラグやトルコ・ウズベク系のテントベルトに裏側に結び目の出ない、不思議な構造の結び(パイル) 技法もあります。

結びについてのアドバイス

トルコ結びが良いとかペルシア結びだから良いということはありませんが、何処の産地だか解らない絨毯を見分けるのには役立ちます。 新しく細かい結びの絨毯は表面からは結び技法の違いは解りませんが、裏を観たり表面を縦方向や横方向などに山折りにしてみると違いがわかりやすいです。 アンティーク絨毯などは、結び糸が磨耗して表面からでも簡単に見分けることが出来たりします。

結びパイルの縦糸について

いわゆる絨毯の縦糸は、素材、糸の太さ、撚り具合などによって絨毯の耐久性や構造の違いなど表面には出てこない部分ですが重要な役割を持っています。 新しいものであれば上下のフリンジ(毛房)を見ることでどんな素材が基礎になっているか簡単に解ります。 遊牧民や田舎の村の絨毯に関しては、ほとんどが羊毛製の縦糸です。撚り糸が2本取りかそれ以上かまた、一部のモロッコの絨毯では単糸のものもあります。 右撚り(Z撚り)=時計周り、もしくは左撚り(S撚り)=反時計周りの2種類で部族じゅうたんに関しては手で糸を紡いでいるため,Z撚りが多く見られます。これは利き手による違いでしょうやはり右利きが多いのでしょう。 また、縦糸に木綿の糸あるいは絹糸が使われる絨毯がありますが、その多くは産業用に織られたものが多く、堅ろう度からいえば羊毛よりも強い糸です。 代表的なペルシア絨毯は代表的産地イスファハンのものは,パイルはウールですが縦糸には贅沢な絹糸が使われていますし、日本で人気のコム産は、パイル縦糸ともに絹製です。その他はほとんどが木綿糸が使われているようですが、ノットの数に係わらずトルクメンなどでは非常に細く紡いだ羊毛を縦糸を使っています。 パキスタンの産業用の絨毯をシングルノット・ダブルノットと分類する場合がありますが、これは縦糸の重なり具合(デプレス)による違いで、特にペルシア結びの場合に 縦糸が二重になる場合をダブルと平面に並ぶ場合をシングルと呼んでいます。都市工房のペルシア絨毯の場合ほとんどがこの二重のデプレスの強いものです。当然丈夫で腰のあるしっかりした物になります。 見分けるのは房にの数が倍になることでわかります。余談ですが、バブル時代に最高級の手織り絨毯が輸入されましたがデパートなどのセールスマンが、絨毯をよく知らないお客さんにこの房の長いものが高級品であるなどどいうセールストークをしていましたが、実は房の長さではなく房の多さは結びの仕事の手間と係わっていたということでした。

パイル内の横糸

表面には出てきませんが、一段ずつの結び目が解けてこないためにも入れる横糸の存在は大切です。最近は縁側のある家もなくなり、死語にもなりつつある「縁の下の力持ち」という働きです。素材や、糸の太さ撚りの強さなどで出来あがった絨毯の持つしなやかさや丈夫さに違いが出てきます。とくに,古くなればなるほど横糸の良し悪しが大切になるようです。

キリム=綴れ織り  (タピストリー ウィービング)

はつりのある綴れ織り

我々がいわゆるキリムと呼んでいるものがこのはつりのある綴れ織りの毛織物です。最近では絹制の物もあるようですが、オリジナルは遊牧民の生活のための道具です。英語ではタピストリーとよばれ、壁掛けと言う意味の代名詞にもなっています。キャロルキングの名作【Tapestry】行ったり来りしながら織物が出来あがっていくのがまるで人生のようだというの歌詞にもあるように、、シンプルですが奥の深い、毛織物の基本中の基本です。 ここでは紹介していませんが、毛織物の原点はもちろん縦糸と横糸を交互に入れるだけの平織です。 縞や格子は平織で出来ますが、複雑な模様を入れたかったら綴れ織りは効果的です。起源はわかっていませんが、アナトリアキリムの研究者で最近は芸術的な作品を多数発表しているトルコ人のベルピナ-ルさんが,来日された時に見せていただいたスライドではアナトリア東部で発見された1万2千年前に毛織物の断片を見て,たいへん驚きでした。クルド族達は7000年以上前から遊牧していたといわれています。 おそらく遊牧民達のなかで相当昔から,羊毛を糸にして織るという行為が行なわれてきた事でしょう。 有名なエジプトのコプト織りもこの綴れ織りで、極めて複雑で緻密な人物や動物などを表現していますし、遠く離れたインカやナスカでも同様のすぐれた綴れ織りが発掘されています。アナトリアの遊牧民に代表されるはつりのあるキリムは、横糸を左右に綴って織り上げる技法で縦方向にはつりが出ます。最初これを穴があいているのかと思ったことがありましたが、織りのテクニックではつりがあるほうがフラットなしなやかさが出るようです。 織り手から、幾何学的な文様はジグザグな模様を描き易いようで慣れてくるとリズム感がでて面白いように柄が織りあがって来ると聞いたことがあります。

はつりのない綴れ織り(横糸が絡まない)

これも綴れ織りの技法ですが、横糸間のはつりが出ないように、同一の縦糸に糸を掛けるという技法です。これによってはつり(穴?)がなくなり強度が出るようです。 イラン系の遊牧民にこの技法が多く見られます。しっかり撚られた丈夫な糸でこれを行うと少し重ねた部分が少し盛り上がった感じがします。

インターロック(横糸を絡める)

これも前の綴れと同じようですが、横糸どうしを絡める点が違います。前の技法よりさらに強度は強くなります.重なる場所違う色糸の場合少しすっきりしない感じはありますが,使い込んで馴染んでくるとやはりその部分から裂けたり穴が広がったりしないので安心感があります。やはり南イランなどの移動距離が長く砂漠などの環境に厳しい地域の部族に多く見られます。

シングル インターロック

上の技法で一段の横糸に一段の横糸を絡める技法。 ダブルインターロック 同様の技法で二段づつの上下の段を絡める方法。 さらに強度がでて丈夫なものになります.アフガニスタンのウズベクキリムや移動距離の 長いことで知られるイランのバクチアリ族などにもよくこの技法がみられます。コプト織りのほかにも中国の皇帝の衣裳(龍衣ロンパオ)や日本の帯などにもこの綴れの技法の卓越した織物が見られます。京都の祇園祭などの山鉾に掛けられる縣装品にも世界的に貴重な綴れの技法の織物がみられます。

縫い取り織り=ジジム(トルコ) (brocading)

遊牧民の毛織物の技法で分類が難しいのが、この縫い取り織りです。縫い取りと約すのが良いのかもわかりませんが、トルコでジジムと呼ばれている平織り地に盛り上がった糸で模様を表現している技法です。今回の技法分析のテキストであるマルラ=マレットさんの「織りの構造=Woven Structures」ではBrocade=錦(辞書では)となっています。錦織というと金襴緞子の最高級の着物や帯を連想してしまうのでここではあえて縫い取りという表現をしましたが、どなたかぴったりあう日本語があったら教えていただきたいです。また、似た技法でアナトリアやコーカサスにあるジリと呼ばれる織りや、呼び方のまぎらわしいイラン系のジャジム(wrap-substitution)。これは技法的には違いがあります。どんな模様でも色でも描き易いのか、多くの部族で多様に使われます。一見すると刺繍のようにも見えることから、イランの一部ではスザニ(刺繍=針)と呼んだりするので間違え易いのですが、これは織りで針を使う刺繍ではありません。マレットさんによれば(オーバーレイ=ブロケード)と(アンダーレイ=ブロケード)そして(オーバーレイ&アンダーレイ=ブロケード)という厳密な分類をしています。詳しくは織りの構造を読み込む会がありますのでそちらのほうでご紹介します。

ジリ織り (トルコ)

縫い取り織り技法の一つで,アナトリアの遊牧民に時々見られる珍しい技法です。これまで2~3度しか実物を見たことがありませんが、縦方向に線がくっきりする ジジムとは一味違った面白い技法です。マレットさんによれば(オーバーレイ=ブロケード)技法のひとつだそうです。

紋織り 横糸紋織り  (weft-substitution)

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遊牧民のなかでもイランの西部からアフガニスタン、パキスタンにかけて移動生活を続けるバルーチ族・ブーラフィー族やアフシャール族に良く見られる技法です。 紋織りという表現が適切かどうか判りませんが、とくにアフシャール族などに菊の花のような小紋がらの文様を見ることが出来ます。 縫い取り織りと見た目の違いは、縫い取りが平織り地に糸が盛り上がって柄を織り出すのに対して紋織りの表面は平らです。 横糸紋織りでは,横糸で文様を表現するため,編み込みのセーターのように織り糸が裏を通ります。このため表面はすっきりした感じですが、裏面をみると表とはまったく違った糸の渡りを見ることが出来ます。マレットさんの分析によるでは「weft‐substitution=横糸で代用する」という言葉で表現されています。 バルーチ族などの他にもアフガニスタンのハザラ族やモロッコのベルベル族のゼモールやザイーネの毛織物にもこの技法の毛織物を見ることが出来ます。 ちなみにバルーチ族の毛織物には、今まであげた全ての技法「パイル・キリム・ジジム・紋織り」が一枚にバランス良く使われているものがあります。 まるで遊牧民の毛織物の見本帳のように楽しめます。厳しい環境により草木染めの原料となる植物に恵まれないために色数が少ないのです。 それを補い華やかさを出すための生活の知恵かもしれません。

ジャジム(イラン)・ ガジャリ(アフガニスタン)=縦糸紋織り(wrap-substitution)

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縦糸を代用して柄を表現するのが縦糸紋織り(wrap-substitution)です。 これまで紹介した毛織物と違いは、まず織り器に掛ける縦糸を染めることです。縦糸による柄表現になるので、糸を張る段階で配色が決まります。また,ほとんどが狭い幅の織り機なため、大きな掛け布などには織りあがったものを何枚か繋いで幅広の毛織物にしています。 特徴のひとつは、縦糸の撚りの強さにあります。裏から見ると良くわかりますが、縮れたコイルのようなしっかりした縦糸を見ることが出来ます。一説によるとこの糸を撚るのは力のある男性の仕事で、遊牧民の毛織物作りの中では限られたことのようです。横糸が細く柔らかいので、掛け布として布団を隠したり(テントの中では押入れが無いので)カーテンのように間仕切りに使われたり、移動の時には様々な生活用具を包む大風呂敷のような多目的な万能布として使用されます。 これを作るのには、たいへんな手間がかかるのであまり多くの部族では作られておらず、主にはイラン北西部のシャーセバン族、イラン北東部のホラサーンクルド族です。また、アフガニスタンのウズベク系の部族もこの技法を好んで使います。 細く作るのが可能なことからテントのベルトや様々な紐類、または北部の寒い地域で、使われる炬燵「ル=コルシ」のカバーいわゆる炬燵がけとしても使われます。ただし,アフガニスタンではイランと違いこのタイプの織りものをガジャリと呼んでいます。最近では古くなったジャジムやガジャリを解きほぐして糸にして、再利用した毛織物がイランの東北部を中心に行なわれています。縦糸を染めているので、草木染めなどの質の良い色糸で長い糸が取れるからです。 これももう何年続くかはわかりませんが・・・。

スマック織りもしくはソウマク織り  (sumack)

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コーカサス地方のshemaka という地名が語源だそうですが、ダゲスタン、アゼルバイジャン、 イランの北西部などの地域や部族に多く使われます。有名なスマックにコーカサスのドラゴンスマックと呼ばれる龍文様の毛織物があります。迫力のあるモチーフと鮮やかな色彩そして細かいスマック織りの技術を持った芸術性 の高いものです。絨毯(パイル)にもドラゴンカーペット呼ばれる17~19世紀のコーカサス産の典型的な絨毯があります。西欧では忌み嫌われるドラゴンという空想上の動物ががここでは伝統的な 文様として表現されます。比較的大きなものが多く、圧倒的な存在感がある毛織物です。  順目スマック縦糸に一列づつ糸を巻きつける技法ですが、同じ向きに巻きつけて行くため揃ったきっちりした印象があります。シャーセバン族のマフラシュなどによく見られます。  逆目スマック順目とは逆に一列づつ反対方向に糸を巻きつけていきます。きちっと揃った感じは ありませんが文様に表情がでて、立体感が出ます。これ以外にも綴れ織りのはつり部分にスマックを使ったり、平織り地に文様の部分だけをスマック織りにするものや、様々なバリエーションのスマック織りが見られる。ジィルゥ(zilu)織り(トルコのジリとは違います) 古代縦錦織り(イランヤズド) イスラム教以前の古代イランのゾロアスター的雰囲気を色濃く残す,カシャーンからヤズド にかけての地域に僅かに残る技法です。織りの構造に関しては、イラン人の毛織物研究家パルビズ・タナボリ氏の「persia flat weave」 に写真入りで詳しく載っています。相当古くから伝わるこの織り専用の、竪機の織り機によって伝統的に織られてきました。基本的には2色のツートーンカラーでほとんどがブルーと白の組み合わせです。一見いぐさ編んだ花茣蓙を連想させます。木綿地がベースの都会的な洗練された織物です。

もじり織り (twining)

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もじり織り (twining) 織り技法の中ではとてもシンプルで基本的な技法です。主に2色の違った色糸を端から交互に縦糸に交差して柄を作ります。このときに糸をもじるようにねじるのでもじりとも呼ばれます。単純なシングルツイニングと鎖編みのような2重のものがよく見られます。他の技法と一緒に取り入れるとアクセントになり効果的です。モロッコのベルベル族の毛織物やバルーチ族のものによく見られます。また、キルギス族クルド族に時々見られるテントの周りに巻きつけるスクリーンのような編み物(チイ=葦ズ)にもこの技法が使われます。これはテントの中にぐるっと回されて網戸のような役割をするそうです。

刺繍 (スザニ)

針を使って主に平織りの上に刺す世界中にあるよく知られた手芸技法です。 東アジア(中国・韓国・日本)のような緻密さはありませんが、大らかで大胆そして強烈な 色彩が見事です。最もよく知られるのはウズベキスタンのスザニです。これは婚礼用の特別な もので,たいへんに立派なものですが、その他にもウズベク~タジク国境のラカイ族のものや 羊毛地に羊毛糸の素朴な刺繍もあります。イラクにアラブ系の遊牧民でエレイシと呼ばれる 楽しい模様の刺繍があります。花や動物など自由なモチーフがカラフルな色糸で目いっぱい  羊毛の平織り地にチェーンステッチで刺されています。 残念ながら、急速な世界情勢の変化により最近はまったく見られなくなってしまいました。

遊牧民から学ぶ羊毛文化1

手仕事ファクトリー

    • 会期: 2011年1月27日(木)~2月20日(日)の木金土日祝(計16日間)の開催(月~水はクローズ)
    • 会場:ハウスクエア横浜 住まいの情報館1階 ギャラリースペース
    • お問合せ:トライブ 榊 龍昭(トライブ公式サイトのお問合せページへ
    • アクセス:ハウスクエア横浜横浜市都筑区中川1-4-1
      • 電車: 横浜市営地下鉄 中川駅より徒歩2分(田園都市線あざみ野駅より乗り換えならば、ひと駅)
      • 車:第三京浜都筑ICもしくは 東名高速道路横浜青葉ICより、それぞれ約10分(有料駐車場完備)
    • フライヤーはこちらから御覧いただけます。 (オモテ面) ウラ面はこちら

メッセージ
西アジアでは、7000年も前から、古代都市文明と深く関わりを持つ遊牧民が存在した。シンプルで機動的、必要最低限のモノしか持たず、たくましく、豊かに生きることを選択した人たちである。

厳しく、激しい移動生活の中で洗練されていった道具としてのモノには、「用を超えた美」が凝縮されている。

生きるための知恵(センス)と部族の精神性(スピリット)が織り込まれた毛織物を羊毛文化に魅せられた人たちと共に紹介します。

展示品について(遊牧民の暮らしと毛織物)

遊牧民の分布図

        1. 中央アジア◆草原の赤い絨毯◆

トルクメン・ウズベク・タイマニ族の絨毯やスザニ(刺繍布)

        1. イラン~アフガニスタン◆砂漠とオアシスの絨毯◆

クルド・バルーチ・ブーラフィー族の毛織物
ホラサーン~シスターンの・・・

        1. コーカサス~イラン北部◆遊牧民の部族絨毯◆

シャーセバン・カシュガーイ・アフシャール族などの毛織物
イラン高原~アナトリア高原・・・

ワークショップ・トーク・実演等の催し

イベント期間中には、羊毛文化を楽しく学べる様々な催し物を企画しています。お問合せやご予約をお待ちしています。

お問い合わせ先:トライブ 榊

      • 1月29日(土)

14~15時 ギャラリートーク
展示品について、地域や母語別の遊牧民の特徴、生活道具としての毛織物の分類などについて、お話しします。

      • 2月5日(土)

11~12時 トーク 「羊毛文化の成り立ちと風土」 話し手 トライブ榊 聴講無料・予約不要

13~15時30分 実演・体験「羊毛文化を学びながら糸紡ぎ体験」 講師 駒木根 智紘(ひつじ日和主宰/羊毛文化研究家/広瀬光治氏師事) 実演の観覧は無料。糸紡ぎの体験は、材料費実費、終了しました。

      • 2月12日(土)

11~12時 トーク「遊牧民に欠かせない毛織物」 話し手 トライブ榊 聴講無料・予約不要

13~15時30分 ワークショップ「部族の毛織物(キリムなど)の技法体験」 講師 矢野ゆう子(部族織研究家/キリム教室講師) 定員5名(先着順) 参加費3000円

終了しました。

      • 2月13日(日)

11~12時 トーク「遊牧民の分類と特徴」 話し手 トライブ榊 聴講無料・予約不要

13~15時30分 ワークショップ「羊毛文化の原点 フェルト作り体験」 講師 プレバドルジ・アーリュンダリ(モンゴル人羊毛研究家/京都工芸繊維大学大学院生) 定員8名(先着順) 参加費3000円

終了しました。

      • 2月19日(土)

11~12時 トーク「羊毛文化の結晶=絨毯」 話し手 トライブ榊 聴講無料・予約不要

13~15時30分 ワークショップ「パイル構造を学ぶミニ絨毯作り体験」 講師 橘 真美(絨毯研究家) 定員5名(先着順)

定員に達しました。ありがとうございます。

      • 2月20日(日)

14~15時 ギャラリートーク
展示品について、地域や母語別の遊牧民の特徴、生活道具としての毛織物の分類などについて、お話しします。

アイテム別の展示内容(一部販売もあり)

アンティークトライバルラグ、フェルト、オールドギャッベ、キリム、ソフレ、袋物(サドルバッグ、塩入れ袋、トルクメンの婚礼用等)、動物の飾り、テントベルト、荷紐、民族衣装、スザニ、アンティークテキスタイル(イカット、絞り、更紗等)、オリジナルバッグ、天然石&とんぼ玉アクセサリー、金属部品、中国家具、ニット、部族織り、自作絨毯、フェルト作品などのワークショップ講師による手仕事作品など。

絨毯の織り構造について1.(パイル構造)

遊牧民の毛織物には、非常に多くの技法があり、様々な研究がなされています。ここでは、絨毯やラグなどに見られる様々な織りや刺繍の技法について、解説をしています。
ただし、技法については研究不足な部分も多く間違っていていたり呼び名が違っていることもあるかもしれません。
技法については、かなりの専門的な研究者や研究書も出版されているのでそちらも御紹介してゆきたいです。
今回の説明で特に参考にしたのは、アトランタに住む織物研究家MarlaMallettさんの『Woven Structures 』です。
これは遊牧民族の毛織物の技法をほとんどカバーした研究書です。


トルコ結び=ギョルデスノット対照結び)

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縦糸に結ぶパイル(起毛状の糸)の絡め方が対称なものをギョルデスノットと呼んでいます。ギョルデスはトルコの古い町で、お祈り用のミフラーブデザインの絨毯が有名です。中国段通の何十段とか、ペルシア絨毯で1cm四方にいくつ結び目があるとか気にしますが部族絨毯では結び目の数はあまり関係はありません。しかし19世紀から20世紀始めのトルクメンのテッケ支族のものは縦方向に驚くべき詰まった絨毯が見られます。ノット数でいえば、トルコ西部のヘレケのシルク絨毯が有名で、1cmに24x24=576ノットという人間業ではないようなものがあるそうですが、これはもちろんトルコ結びだそうです。また、イランでもタブリーズなどの産業用絨毯の栄えた地域では鈎針による対照結が行なわれています。欧米で人気のコーカサス絨毯、トルコの村の絨毯、19世紀のトルクメン絨毯「ギャッベ」で有名なトルコ系遊牧民カシュガイ族もトルコ結びです。世界で最古のほぼ完全な形で残ったパジリク絨毯もこの対称結びだといわれています。発掘された当時は文様が同時代のアケメネス朝ペルシアのペルセポリスのレリーフに似ていることからペルシア系の人たちが織ったものではないかと考えられていましたが、最近では結び方が対称(トルコ結び)なことや中央ユーラシアの草原を支配した、スキタイ族の影響などが見直されおそらく中央アジアで織られたのではないかという説が有力になっています。

ペルシア結び=セネノット  (非対称結び)

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縦糸に結ぶパイル(起毛じょうの糸)の絡め方が非対称なものをペルシア(セネ)ノットと呼んでいます。     セネとはイラン北西部の毛織物の盛んな町で現在はサナンダジと言う名前に代わってています。昔の呼び名がセネでカジャール朝に栄えた歴史のある場所です。 皮肉なことに最近はは細かい曲線的な綴れ織りキリムのほうが有名です。深い藍色と赤のコンビが美しい由緒ある伝統的な絨毯も織られていました。 有名なペルシア絨毯や最近のトルクメン絨毯インドのムガール絨毯などがこの技法で織られています。 右開きの非対称結びと左開きの非対称結びがありますが、多くの都市工房のペルシア絨毯は右.絨毯の国と云われるトルクメニスタンでは左開きで結ばれているということです。部族絨毯では、バルーチ族や多くのペルシア語系の遊牧民はこのセネノットを使っています。断片しか残っていないのであまり知られていませんが、パジリクと同じ南シベリアのバシャダルという場所で、この非対称結びの絨毯片が見つかっています。 研究者によれば、パジリクより200年ほど古くこれが世界最古ということです。また、一枚の絨毯に両方の技法が使われることがあります。 一部のトルクメン絨毯には、ほとんどがペルシア結びなのに両脇1cmぐらいにだけトルコ結びが使われているものがありました。 ちなみに,日本の迎賓館で使われた特注の手織り絨毯がこれと同じ端だけ対照結びという話をきいたことがあります。もしかしたらトルクメン絨毯をそっくり真似たのかもしれません。

チベット結び

チベタンラグともいわれるチベット高原の手織り絨毯は他にはない特色の結び方です。セネ(非対称)結びの変形ですが、棒を使いループを続けて絡めていくという方法です。結び糸を結ぶたびに切る手間が省けます。 もちろんループはあとで切りそろえられます。色糸を一本づつ変えるようなデザインには不向きでしょうが、無地の多いものには効率的です。結び目も綺麗に揃います。

ベルベル結び

北アフリカモロッコの内陸からサハラ砂漠へ向かうアトラス山脈で、遊牧生活するベルベル族に多く使われる、対照結びの変形の八の字のような特殊な結びです。モロッコというと,暑い国のイメージがありますが標高が5000メートルに近いアトラス山脈の高地は毛足のある絨毯や目の詰まった毛布のような毛織物は必需品です。少し毛足の長いベルベルノットは平織と組み合わされても使われることが多いです。 その他に中央アジアのアラブ系部族のジュルキュール(熊の毛)というパイルラグやトルコ・ウズベク系のテントベルトに裏側に結び目の出ない、不思議な構造の結び(パイル) 技法もあります。

結びについてのアドバイス

トルコ結びが良いとかペルシア結びだから良いということはありませんが、何処の産地だか解らない絨毯を見分けるのには役立ちます。 新しく細かい結びの絨毯は表面からは結び技法の違いは解りませんが、裏を観たり表面を縦方向や横方向などに山折りにしてみると違いがわかりやすいです。 アンティーク絨毯などは、結び糸が磨耗して表面からでも簡単に見分けることが出来たりします。

結びパイルの縦糸について

いわゆる絨毯の縦糸は、素材、糸の太さ、撚り具合などによって絨毯の耐久性や構造の違いなど表面には出てこない部分ですが重要な役割を持っています。 新しいものであれば上下のフリンジ(毛房)を見ることでどんな素材が基礎になっているか簡単に解ります。 遊牧民や田舎の村の絨毯に関しては、ほとんどが羊毛製の縦糸です。撚り糸が2本取りかそれ以上かまた、一部のモロッコの絨毯では単糸のものもあります。 右撚り(Z撚り)=時計周り、もしくは左撚り(S撚り)=反時計周りの2種類で部族じゅうたんに関しては手で糸を紡いでいるため,Z撚りが多く見られます。これは利き手による違いでしょうやはり右利きが多いのでしょう。 また、縦糸に木綿の糸あるいは絹糸が使われる絨毯がありますが、その多くは産業用に織られたものが多く、堅ろう度からいえば羊毛よりも強い糸です。 代表的なペルシア絨毯は代表的産地イスファハンのものは,パイルはウールですが縦糸には贅沢な絹糸が使われていますし、日本で人気のコム産は、パイル縦糸ともに絹製です。その他はほとんどが木綿糸が使われているようですが、ノットの数に係わらずトルクメンなどでは非常に細く紡いだ羊毛を縦糸を使っています。 パキスタンの産業用の絨毯をシングルノット・ダブルノットと分類する場合がありますが、これは縦糸の重なり具合(デプレス)による違いで、特にペルシア結びの場合に 縦糸が二重になる場合をダブルと平面に並ぶ場合をシングルと呼んでいます。都市工房のペルシア絨毯の場合ほとんどがこの二重のデプレスの強いものです。当然丈夫で腰のあるしっかりした物になります。 見分けるのは房にの数が倍になることでわかります。余談ですが、バブル時代に最高級の手織り絨毯が輸入されましたがデパートなどのセールスマンが、絨毯をよく知らないお客さんにこの房の長いものが高級品であるなどどいうセールストークをしていましたが、実は房の長さではなく房の多さは結びの仕事の手間と係わっていたということでした。

パイル内の横糸

ミャオ族の藍染布

貴州省

貴州省ミャオ族中国貴州省西部珠場(Zhuchang)に生活するミャオ族(苗族)のろうけつ技法の藍染布。この地域には様々な少数民族が暮らしているが特に貴州省では、藍染のルーツと考える研究者もいるほど藍染めの盛んな地域である。特に前掛けや赤ちゃんの背負子などに施される細かい文様のろうけつ染めは見事である。陟沒≠ニ呼ばれる道具を使用して、繊細な文様を表現するのだが、その細かさは普通では考えられない。
ミャオ族(苗族)前掛け&背負子布

アジア布のフォトアルバムはこちらから

貴州省ミャオ族

藍染背負子

ろうおき作業

ろうけつ染めの工程

 

タイ~ラオス~ベトナム~中国南部などの山岳地帯に暮らす少数民族の布や衣装は、その超絶的技法と飛びぬけたセンスが世界的にも高い評価を得ている。

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日本の手仕事.1(南部菱刺しのセンス)


浅草のど真ん中に不思議なミュージアムがオープンした。名前は『アミューズミュージアム』サザンオールスターズなどが所属する大手芸能事務所がその母体である。昨年の11月にオープンし、新聞などで東北の手仕事を中心に展示していることを知り是非とも見てみたいと思っていた。やっと念願かなって展示を見ることが出来た。オープン時には『BORO』という見事なタイトルで言葉通りぼろぼろに着古された東北の寒村に伝わる民俗的史料価値の高い古着などが展示されていた。
アミューズミュージアムからの引用。
このボロについては、美しいという人も入るかも知れないが、やはり日本人にとってはこれを『アート』として感じるには、相当な感性の持ち主だろう。
イタリアのミラノで何代か続く老舗のラグディーラーのセバスチャン・サルガド氏がまさに『BORO』というテーマで何回も展示会を行っているので、イタリアなどではアブストラクトな世界としてそれなりの評価を得ているのだろう。藍染の繋ぎが無作為で美しい布団皮などは知らない者が見れば、その古びた味わいと、何十にも重ねられた針仕事のエネルギーと、自然素材の「テクスチャーが相まってなんともいえない存在感を発していることに違いない・・・。
ところがある程度の年代以上の人にとっては、なにか忘れてしまいたい過去のずかしさを伴う記憶をフラッシュバックさせてしまうような、不思議な気持ちになるのではないだろうか?まさしく紙一重にところにある世界である。収集された田中忠三郎さんにのコレクションにかけた思いには本当に頭が下がる。
この展示に関してはこちらが大変参考になった。
『美しい世界の手仕事プロジェクト』

それに対して今回の展示は誰が見ても美しい手仕事の世界である。

南部菱刺しコレクション

 
個人的にも大変に興味があったのが現在展示している『南部菱刺しコレクション』である。東北には様々な針仕事が伝統として受け継がれてきているが中でもこの刺繍前ダレは特別に美しい。またこの前ダレ=前掛けには忘れられない思い出がある。自分も東北生まれであるが、東北人としての身だしなみというかお洒落心が凝縮したものがこの前垂れに籠められているように思うからだ。講演会でも田中忠三郎館長が、この前掛けに秘められた淡く悲しいお話をされていたが、私にも前垂れにはある人の思い出がある。

今から20年ほど前だが、岩手県と青森県の県境に近い寒村を偶然に訪れた際に、導かれるようにたどり着いた日形井という部落。そこには南部曲がり屋をそのまま(移築ではなく)利用したアジア民族造形館という不思議な世界があった。正確には岩手県の野田村になるのだが、そこは非日常的な空気が流れる「マージナルワールド」であった。入り口にはタイの山岳民族アカ族の鳥居があり、その奥にはネパールの奥地にあるような女神廟の祠があり、建物は生粋の萱葺きの南部曲がり屋である。
中に入ると、囲炉裏から流れる煙の匂いでなんとも不思議な世界へタイムスリップする。そこでには、すらりとした東北美人の学芸員さんがさりげなく展示品説明をしてくれる。ここは魔界か極楽か・・・?このとき出合ったひとが南部菱刺しの前垂れに関わる私の思い出である。

南部菱刺し アミューズからの引用

彼女は本当に丁寧に一点一点の展示品を説明してくれた。一生懸命標準語で話してくれるのだが、言葉の端々に出る東北訛りがとても心地良かった。こちらが遠くから来ている事、アジアの手仕事にとても興味を持っていることなどを話すと益々詳しく、丁寧に説明してくれた。
とても立ち去りがたかったのだが、東北の寒村の夕暮れは早い、帰り道もおぼつかないので早々に引き上げることになったのだが、その時の光景は今でもはっきりと覚えている。帰り道では一緒に行った友人の車がエンコしてしまいリアス式鉄道の陸中野田駅まで歩くことに。
誰もいない駅で電車が来るのを待っていると、夕暮れの原っぱから野焼きの煙が立ち上り、縄文時代へ迷い込んでしまったかのようだった。
あまりの心地よさに、その後もアジア民族造形館への思いは増してゆくのだった・・・・・。

南部菱刺し アミューズから

 

どうして絨毯織りが始まったのか?woven structures3

シャーサバン族に代表されるスマック織りについての、考察が途中になってしまったが、『織の構造』=woven structuresから見えてくる事に注目したい。

『旅と絨毯とアフガニスタン』のブログで継続的に紹介されている、Peter 氏の『アムダリア川沿いのトルクメン絨毯』のなかでも言及されていたが、織の構造から部族の違いを同定する事が必要になる場合がある、とうテキストがとても興味深かった。

なぜなら、現地で購入した絨毯やキリム、塩入れなどの袋物が何処のどんな人たちによって織られたものかということがとても知りたくなる。そんな場合現地のディーラーに聞いてもわからない場合が多く、欧米で出てる専門書を首っ引きで、似たような色彩やモチーフを探すのだがそれでもわからない場合がある。


ルル?バックの表皮 表面(交互スマック) 周り縁(パイル)実はこの袋物の表皮も何処の部族かを特定できずにいた。中央の四角と芋虫のようなへんてこな形のモチーフをあまり見たことがなかったからである。

これは先ほどのバックフェイスのアップである。今はおそらくルル系のバフティヤリー族のものと思っているが、その決め手となった根拠のひとつは、袋物の底の部分にパイル構造(絨毯)が使われていることと、袋の表皮(表面)に交互スマック(Reverse soumack)という技法が使われていることだ。
もちろん表面の文様の意味を確かめることも必要だが、様々な遊牧民族が集結するイラン南西部のザクロス山脈周辺地域は、クルド族・ルル/バフティヤリー族・ラキ族・カシュガーイ族・アフシャール族・ボーヤ アーマド・トルカシャバンド・アラブ系(ハムサ)など等遊牧民のメッカで、文様の比較に頼った分類が難しい。

ルル族 サドルバック(ホリジン) 表面=交互スマック、底=パイル、袋の留め口=綴れ織り
このサドルバックはルル族を代表するもので、James Opie氏の『TRIBAL RUGS』の中でも何度も取り上げられている。このサドルバック(ホリジン)の第一の特徴は、とても大きいことである。おそらくロバもしくはラマが担ぐのであろうが、動物がかわいそうになるほど巨大である。険しい山越えなので、ラクダはほとんど用をなさないようである。
幅が1メートル、長さは2メートルにもなり、袋だけでもかなりの重量である。ちなみにこのホリジン(トルコ語でヘイベ)は両脇をほどいて、開口部を繋いで敷物としてよく売られている。
そして、その大きさゆえか、目いっぱい詰められる家財道具の重量に耐えられるように、最も破れやすい、袋の底部分が絨毯(パイル構造)になっているものが殆んどである。もちろん底パイル構造がルル/バフティヤリー族に限られたわけではないが、彼らの袋物の底は小さな塩袋などにおいても、パイル構造が良く見られる。


    ルル/バフティヤリー族 塩袋 表面=スマック織り 底=パイル
このルル/バフティヤリー族らしいモチーフに溢れる塩袋も、底の部分にはパイルが使われている。
4000メートルを越えるザクロス山脈の峠を越えて、300キロにも渡る過酷な移動をする事でも知られる勇猛果敢なバフティヤリー族にとって、大型の袋ものは必要不可欠である。
そして、その重たい袋物の最も負荷のかかる部分は袋の底であるだろう。

遊牧民にとってはその部分(袋の底)を絨毯=パイル構造にすることは自然なことだったのでないだろうか?様々な毛織物の構造(キリム・スマック・ジジム・ジャジム・紋織りなどなど)のなかでおそらく最も頑丈な構造を持つものはパイル=絨毯だと思う。
絨毯がいつ頃、どんな人々によって織り始められたのか?というトピックは絨毯研究者や絨毯好きにとって純粋な疑問でありこれまでに様々な議論がなされてきた。

もしかして、絨毯=パイルという構造は、袋の底として始まったのだとしたら面白いかもしれないな・・・などと想像してみると楽しくなる。

部族の毛織物の技法について3《Woven Structures》

シルクロード研究所発行の機織研究を読み進めるうちに、シルコロードの東西を問わず織り機の形態は次の4つに分類されるらしい。



地機(パキスタン西部バローチスタン州 ブーラフィー族) 写真提供 K.M.氏

1.地機・・・・地面に直接杭を打って、タテ糸のテンションを保つ方式。
 テントベルトやジャジム(イラン系)もしくはガジャリ(ウズベク系)など細幅の毛織物が多い。
 遊牧民などが青空の下で長~く色糸を張っているの光景が典型的。

2.水平式枠機・・・・枠機は水平と垂直に分けられるらしいが、タテ糸が水平に張られていてそのテンションを保つのに枠が用いられる方式。
 遊牧系部族の多くがこの方式でキリムや絨毯を織っていると考えられる。ただし大きい枠は持ち運びに不便なため、遊牧民と定住民では枠の大きさが異なるであろう。

3.垂直式枠機(傾斜式も含む)・・・タテ糸が垂直方向に張られてテンションを保つ形式。傾斜式とは立枠が固定せずに、壁などに立てかけて置く方式。ただししっかりとした壁などが有る定住者向きか?織手の体勢が楽なので、持ち運びの必要がない多くの商業的絨毯の多くはこの方式であるようだ。ただし、トルコでは移動する遊牧民もこの垂直式を使っているのを見かける。

4.高機・・・より高度な技術を要する時の織り機でヤズドの有名な空引き機などがこのグループである。


          イランヤズド周辺が有名な絣織の高機

イランヤズドで織られるジールゥと呼ばれる織物(空引き機)
巨大な織り機なので全体は写真に入らない。
その割りに織られるのものはいたってシンプル。


             イランカスピ海沿岸のマザンダラン周辺の織り
。比較的繊細な織物が織られる。

ここで織りの構造について大切なことに気がついた。

1番と2・3・4番には時として織りあがる織物の構造《Woven Structures》 が大きく違うことが有る。

簡単に言うとタテ糸が表にくるか、ヨコ糸が表にくるか違いである。
私たちが目にするほとんどの織物はヨコ糸が表に出る構造である。キリムとして知られる綴れ織、以前に紹介したスマック織、ジジム(縫い取り織り)、錦などヨコ糸(色糸)で柄を表現する。

それに対してタテ糸が表にくる構造がある。おそらくもっとも古くはこの構造ではなかったかと創造している。  ←の写真では見にくいがタテ糸にが染められている。
この代表的なものとしては、細幅のテントベルト、そしてジャジム(イラン)、ガジャリ(ウズベク)
そしてガーナのアシャンテ族が織ることで有名なケンテクロスなどが上げられる。
他にも、インドネシアやインドシナの山岳少数民族のどの布にも見られるかも知れない。
言い方を変えれば、とても原始的な構造?といえるのかも知れない・・・。

テントベルトの表と裏。部族は特定できない。


トルクメン族のテントベルト(テントの枠に巻きつけて壁のような役割をする)
タテ方向に糸が渡り、柄を作っていることがわかるといいのだが・・・。
このタテ糸表の構造は裏側も表と違った味わいがあって美しい。
原始的では有るが、とても愛らしい織物である。

《参考文献》
Handlooms of the Silk Road Silk Roadology 13 (シルクロード学研究より)

部族の毛織物の技法について2《Woven Structures》

技法について書こうと考えているうちに時間が経ってしまったが、イスラムアート紀行のoriさんから大変に貴重な資料を貸して頂き、「これを待っていたのでは!」という偶然性に驚いた。


資料1.アゼルバイジャン人の地機 ジャジムを織るシャーサヴァンと思われる。
【1.部族の毛織物】 <地機>

その資料は奈良の「シルクロード学研究センター」が出している《SILK ROADLOGY》というシリーズのなかの『シルクロード織機研究』VOL.13というものである。
今回の特集では4名の民族・考古学・染織技術・民族織物技術というそうそうたる研究者の手による丹念なフィールドワークに基づく膨大な調査報告書である。


資料2.イラン:クルド人の地機  テントの外で織る典型的な織り機
【1.部族の毛織物】<地機>

地域的にも最も興味深い、イラン・ウズベキスタン・中国新疆ウイグル地区である。
これだけの専門家による共同研究なので圧倒的な情報の量であり、全体の紹介は難しいのだが、ほんのさわりだけでもかなり面白そうである。


資料3.イラン:トルクメン人の傾斜式枠機
 【2.家内製手工業的=軒先で織られる】<垂直式枠機>

最近とても織物に興味が有る人と出会い、布=織物とは何ののだろうか?という原点に帰るような思いを強くしていたことも、この本との出合いの喜びを大きくしたのかも知れない。


資料4.イラン:ペルシア人の垂直式枠機 
 【3.都市の工房の絨毯(産業的)】<垂直式枠機>

前田 亮先生による織物の起源と発達そして伝播という内容のテキストから魅せられた。
『機織は最初の生産機械である。』という言葉に学者としての意気込みが感じられる。

以前に紹介したように、これまでは織りの技法については無知であった。文様ばかりを分類の判断にしてきたが、ある時に、文様ではどうしても分類が出来ない絨毯に出会い、技法をみることでストンと『こうだったのか!』と解ったことがあってから技法の面白さに気がついた。

また男性が織るもの女性が織るものについても地域や織り手の置かれる生活環境の違いなどJon Tompson氏の分類とも関係が深いということも解ってきた。繰り返し紹介しているが、織り手側にたった絨毯の分類である。

1.部族の生活の道具として織られる毛織物やキリム 【写真資料1と2】 主に女性
 <サドルバック・塩袋・キリム・小さい絨毯等など。> 水平式織り機が多い

2.村単位で織られる素朴な絨毯やキリム  【写真資料3】 女性が多いが男性もあるかも
 <主婦を中心に織られる、家内産工芸品。売ることもも多い> 垂直・水平式両方見られる

3.都市の工房で織られる緻密な絨毯やキリム 【写真資料4】 地域によっては男性が多い
  <分業性の販売を目的に織られる。ペルシア絨毯など> ほとんどが垂直式枠機

4.宮廷御用達用の絨毯。
  <シャー=イランやスルタン=トルコの為の豪華な絨毯> 

この資料の中でも、職能として産業用【売る為の絨毯】やキリムは男性の織り手も多いと書かれていて、イランのカシャーン、ヤズド、エスファハーンなどはほとんどが男性と記されている。

このほかにもイラン人系とトルコ人系の機織の相違などについてもかなり詳しく記されている。
                
これからも、少しづつ紹介して行きたい資料である。


 イランのホラサーン州のアフガニスタンにも程近いサンバシオン村(モンゴル系の部族が10件ほどの集落)で注文された『ギャベ』風の絨毯を織る女性。<水平式枠機>

写真資料の1~4は『シルクロード織機研究』VOL.13からの引用。

《参考文献》
Handlooms of the Silk Road Silk Roadology 13 (シルクロード学研究より)

patora=ikat=kasuri

カテゴリの中に『絣の来た道』というテーマがあったのだが、これまで一度も投稿したことがなかった。このブログを始めた時に意気込んで様々なカテゴリを設定していたのだが、どこからはじめたらよいのか躊躇していたのかもしれない。


■ついこの間、ひょんなことから十数枚に及ぶ,見事なイカットのサリーをまとめて譲っていただいた。このような仕事をしていてこんな機会に恵まれるのは本当に嬉しくまた、やっていて良かったと思う瞬間である。そのサリー達は、古いものではないのだが、よくよく見るとどれもこれも見事なもので、インドの布文化にはあらためて恐れいってしまった。
■これらを気前良く譲って下さった方は、今から10数年前、表参道に今では伝説のテキスタイルギャラリー『IKAT』を主催されていた方で、暫く現役を離れてはいるものの日本における海外美術染織の紹介者の草分けの一人である。
彼女のギャラリーの名前でもある『IKAT=イカット(絣)』の源流であるインドオリッサ地方の伝統的なIKATのサリー展を開催するために、インドのテキスタイルの本場のひとつであるオリッサ州に出向き、地方の村々をかなりの冒険的旅行をされながら収集したものというお話を伺った。


上のモチーフがオリッサ州のIKATの代表的なもので、動物や魚や花などのもモチーフが実に楽しそうに表現されている。『絣の来た道』という大げさなカテゴリを掲げたものの、その源流である本場インドのIKATをほとんども持っておらず、その資料にも乏しかったのだが、なんと彼女は資料も一緒に貸してくださった。
■これまでに知っていたのは、インドのIKATは東西に伝統的な産地があり、東の横綱がこのオリッサで西の横綱がグジャラートという事ぐらいであった。まず世界中の布コレクターの憧れのひとつであるインド西部のこぶのように突き出た地域グジャラートPATORAは染織品の王様といえるかもしれない。

絨毯にも共通する見事な赤の色と幾何学的文様も世界はこれまでに多くの人々を魅了してきたことであろう。

このモチーフもPATORAを代表する像のモチーフで、現在は多くの美術館や個人コレクターの所蔵する逸品となっている。

これは、おそらく柘榴か何かの果実を表現したものではないかと思われるが、見事な草木染による色彩と図案の構成だ。

■IKATには大きく分けて3つの構造的違いが見られるという。まずはタテ糸を括るタテ絣=WARPIKATそしてヨコ糸を括るヨコ絣=WEFTIKAT、そして最高の技術を要するタテ・ヨコ絣通称DOUBLEIKATである。(世界ではこのほかに、インドネシア、バリ島テンガナン村のGeringsing(グリンシン)と日本の薩摩や久留米などのいわゆる(絣)が知られいる。
このPATORAはそのDOUBLE=IKATとして世界最高の技術を要する職人技であり、古くからの伝統文化にのうえに、職能家系としてのキャリアとが組み合わされなければ出来ないものらしい。
■そもそもこのIKATという語はマレー=インドネシア語系で『括る』・『結ぶ』・『縛る』などを意味する『MANGIKAT』という言葉から由来しているようだ。

技法については後で紹介したいのだが、この括るという手間のかかる作業を何度も何度も気の遠くなるほど繰り返し布が織られる前に染め上げる(先染め)がこのIKATである。


これが括られた糸の束であり、これをタテ・ヨコに張り巡らして布を織り上げていくのである。

織り上げられたオリッサを代表するタテ・ヨコ絣。くっきりとした白地の□とそれを囲む格子上の黒が濃い部分の小さな■のところがタテヨコ糸を括って組み合わせられた、いわゆるDOUBLEIKATな部分。(他の部分に比べてよりはっきりとした色彩の印象を受ける。)

インドにおいても、Gujarat・Orissa・Andhra Pradeshなどが特に有名だがここを原点に『絣の来た道』をしばらく辿って見たいと思う。

《参考文献》
写真共: CHELNA DESAI著 『IKAT TXTILES OF INDIA』から引用。

キリム=綴れ織の技法2

そもそもキリムとは何?
「キリムのある素敵な暮らし」主婦の友社プラスワンリビング別冊にあるキリム事典によれば、「キリムとはトルコ語で『平織り(つづれ織り)の技法で織られた、羊、山羊、ラクダなどの毛の織物』とあります。こうしてみるとキリムは織りの技法名ということも出来、ちなみにパイル構造=絨毯とは違う平織りのグループに、ジジム・スマック・ジリ・ブロケードなどの様々な技法があり、これらをキリムと呼べるかどうかは難しいところです。厳密にはつづれ織だけをキリムと呼ぶという人もあれば、これら多くの平織りをキリムと呼んでもかまわないという人もいます。<

また、地域によっても呼び方は違います。イランではギリムもしくはゲリムこれはテヘランと地方(訛り)によって違うようです。アフガニスタンでもはゲリムとかギリムとか・・・。カスピ海の東西地域の西側コーカサス地方と東側のトルクメン地域ではパラス(特に大型サイズのもの)と呼ばれているし、北アフリカではハンベルと呼ばれることもあるようだ。
語源については良くわかってはいないようだが、古いトルコ語に詳しいH氏によるとトルコ語のルーツにキリムという語源は見つからず、イランやアフガンのなまったような(ギ)もしくはゲリムという言葉が、前回紹介したシュメール語の伝統を引き継ぐといわれるマーシュアラブ(沼地のアラブ人)達の使う(葦を巻く)という行為ギリームに近いのかも知れない。

はつりのない綴れ織り(横糸が絡まない)

これも綴れ織りの技法ですが、横糸間のはつりが出ないように、同一の縦糸に糸を掛けるという
技法です。これによってはつり(穴?)がなくなり強度が出るようです。
イラン系の遊牧民にこの技法が多く見られます。
しっかり撚られた丈夫な糸でこれを行うと少し重ねた部分が少し盛り上がった感じがします。


インターロック(横糸を絡める)
これも前の綴れと同じようですが、横糸どうしを絡める点が違います。前の技法よりさらに強度は強くなります.重なる場所違う色糸の場合少しすっきりしない感じはありますが,使い込んで馴染んでくるとやはりその部分から裂けたり穴が広がったりしないので安心感があります。やはり南イランなどの移動距離が長く砂漠などの環境に厳しい地域の部族に多く見られます。 

シングルインターロック
上の技法で一段の横糸に一段の横糸を絡める技法。

ダブルインターロック 同様の技法で二段づつの上下の段を絡める方法。
さらに強度がでて丈夫なものになります.アフガニスタンのウズベクキリムや移動距離の
 長いことで知られるイランのバクチアリ族などにもよくこの技法がみられます。


シングルインターロック(ヨコ糸を絡める)