~遊牧民からまなぶ羊毛文化~ レクチャーVOL.2 【その3.】

4. 紐類
◆ナワール(テントベルト)・・・テントの周りに巻きつけて壁の役割となる太めのモノや、枠組みと屋根を縛りつけたりする細長い紐状のものなど多様。
◆ギャンダンバンド(荷造り紐)…主に移動時に家畜に荷物を縛りつけたり、人が荷物を背負ったりするとき等、多目的に使われる紐。テントベルトよりも短い。

シャーセバン 馬の腹帯

トルクメン テントベルト

5. 動物飾り
◆ホースカバー(ジュルアスブ)・・・主に馬の背中を覆うための背カバー。
◆鞍の座布団 ・・・乗馬用の鞍の上に乗せられる鞍型の毛織物。
◆ラクダのこぶ飾り(アスマリク)・・・トルクメンの婚礼用の装飾品。
◆動物デコレーション・・・ 馬・ロバ・ラクダ・羊など動物を飾るために織られる様々な毛織物。ネックレス、額飾り、膝あてなど様々。

タイマ二鞍カバー フェルト

シャーセバン 馬の背あて(ホースカバー)

トルクメン ラクダの膝あて

バルーチ ラクダの首飾り

~遊牧民からまなぶ羊毛文化~ レクチャーVOL.2 【その2.】

2. 掛け布 (テント内外の多目的布)
◆ジャジムもしくはガジャリ(多目的掛け布)・・・細幅のタテ糸表構造の毛織物。
ヨコ糸が細く軽いので、布団の目隠し、荷物包み、間仕切りなど等多目的に使用される。イランでは、ジャジム。アフガニスタンではガジャリと呼ぶ。
◆エンシもしくはパルダ(テントのドア用掛け物)・・・窓のようにデザインされた、間仕切りやテントの入り口に掛けられるラグ。女性や子供の居る場所を隠す役割もする。トルクメン族に多く、パイル構造(絨毯)が多い。
◆寝具隠し・・・テント内に詰まれた布団や毛布などの寝具を隠すための細長い紋織りの毛織物。アフガン~パキスタンのブーラフィー族に多い。

シャーセバンジャジム

ウズベクガジャリ

3. 袋物
◆ホールジン(鞍掛袋)サドルバック・・・主にロバや馬などの動物の背に掛けて鞍と袋の役割をする。両側に振り分けて荷物を入れる。大きさも様々。
◆ジュワル(大型の物入れ袋)・・・小麦などの穀物や衣類などの食料や生活道具を収納するための袋で、移動のときにはそのままロバ等の家畜の背に積まれる。
◆ナマクダーン(塩入れ袋)・・・家畜をコントロールするのに必要な塩を収納する袋。家畜に舐められないように口の部分が、細くなっている。
◆マフラシュ(布団袋)・・・立方体の形状で移動の時には主に寝具をいれて、ラクダのこぶに対で2つ掛けられる。テントの中では端に積まれて収納箱となる。
◆バーリシト(枕およびクッション)・・・移動中はテントの枠組みの棒や様々な物いれとして、テント内では柔らかいものを収納して枕や座布団として使う。
◆トブレ(飼葉入れ)・・・小型の袋物で移動時や遊牧の際に、主に馬などの家畜に飼葉を与えるために使われる袋。
◆トルクメンの婚礼用袋(トルバ、ジャラー、オクバシュなど)・・・主にトルクメン族の婚礼時に花嫁が持参する衣装などを入れて見せびらかす袋モノ。

ルル/バフティヤリーサドルバック

シャーセバンサドルバック

トルクメンジュワル

トルクメン フェルトバッグ

シャーセバンマフラシュ

シャーセバン塩入れ袋

タイマ二バーリシト

バルーチ背負い子

~遊牧民からまなぶ羊毛文化~ レクチャーその1.

おかげさまで手仕事ファクトリー「遊牧民からまなぶ羊毛文化」も中盤を過ぎ残すところ、あと4日となりました。
天候不順のなか遠くからお越し頂きありがとうございました。
2月11日は午前11:00よりレクチャー「遊牧民に欠かせない道具としての毛織物」を午後からはキリム織りのワークショップを行いました。
先ずはトークの内容からご紹介いたします。

<手仕事ファクトリー>   2月11日 第2回
~遊牧民からまなぶ羊毛文化~
☆ 遊牧民に欠かせない道具としての毛織物

Ⅰ.遊牧民の代表的な毛織物 機能分類  <部族の絨毯.・キリム=Tribal Weaving>
西・中央アジア〈アフガニスタン・コーカサス・イラン・ウズベキスタン・トルクメニスタン・トルコ〉には、遊牧系の先住部族が大昔から生活してきました。
移動という生活においては、必要不可欠のモノしか所有できませんが、丈夫で長持ちする毛織物は遊牧民に欠かせない道具です。

<生活の道具としての毛織物>
生活の道具としての毛織物
1. 敷物― 絨毯 (毛足のあるもの)
◆メインラグ・・・テントの中の主要な部分に敷かれる毛足のある毛織物。

ルルラグ

ハムセラグ

タイマ二ラグ

バルーチラグ

部族絨毯を代表するいわゆるトライバルラグ。世界中のマニアやコレクターによる収集がここ30年で進み、このところ現地からはオリジナルの古くて状態の良いラグを見つける事は難しくなっていいる。ほとんどは欧米のトライバルラグディーラーやコレクター、オークションハウス、美術館などが所有している。

◆祈祷用絨毯・・・イスラム教徒の祈祷の時間に下に敷かれたり、室内の壁に掛けられたりする。

バルーチドクトレカジィプレイヤーラグ

エルサリベシールプレイヤーラグ

祈祷用絨毯=ジャイェナマーズはを織る部族や地域とほとんどない部族地域に分けられそうだ。

先ずはイスラム美術の範疇にある、ミフラーブ(メヘラビ)などのイスラム寺院そのままを表現したタイプ。

遊牧系部族は携帯用の小型(一人分)サイズで、バルーチ族やトルクメンのベシールやコーカサス地方、トルコ東部などが代表的である。

◆テントの外用絨毯・・・ ギャッベ、ジュル、ジュルヒュールなど毛足が長く防水、防寒性の高いパイルの敷物。

カシュガイ ギャッベ

カシュガイ ナチュラル ギャベ

アラブ ジュルヒュー

アラブ ジュルヒュール

日本でも有名なギャッベだが、テント内にの敷物と同時に夏のキャンプ時の野外用敷物(敷き布団)として使われる事もあるようだ。同様のプリミティブなラグがウズベキスタン~アフガニスタン国境付近のアラブ系部族の織る後染めの珍しいラグがジュルヒュールである。トルコにもジュルと呼ばれる同様のラグがあり、モロッコベルベル族にもBOUCHEROUITE(ボシャラウィット、ブシャラウィット)という同様のラグがあるようだ。最近はこのようなプリミティブラグに人気が集まり、特に込み入った柄を好まない日本では人気が高い。

キリム(平織り)・・・テント内を広く覆うための敷物で綴れ織り、縫い取り織り、スマック織り、紋織り等。屋外で茣蓙的に使われる事も多い

ベルベル ハイアトラス グラウィーキリム

シャーセバン ハシュトルード キリム

アフガン ハザラタルタリー キリム

イラン ショシュタール キリム

日本でもなじみの深いキリムだが、トルコ以外にもモロッコ、コーカサス、イラン、アフガニスタン、ウズベキスタン等など世界中に味わいの深いキリムが存在している。

ソフレ・・・ダイニングソフレ食卓用敷物(細長く中央は無地が多い)…食事の時敷物が汚れないように敷く。ラクダや黒羊の毛織物。

ホラサーンクルド キャメルソフレ

ホラサーンバルーチ キャメルソフレ

◆ナン包み用(正方形で房の無いもの)・・・主食のナンが冷めたり、乾いたりしないための保温保湿用布

カモ村 ナンソフレ

アフシャール ナンソフレ

食事のときに広げられる細長いソフレとナンを包んだり捏ねたりするナン用ソフレの2種類に分かれれるが、このソフレも限られた地域や部族に見られる。

ダイニング(細長い)ソフレはイラン北東部のクルド族~バルーチ族などが多く、正方形のナンソフレはアフシャール族やイラン中西部のカモ村など特定の地域や部族に織られることが多い。

(続く)

ワークショップの内容はこちらからもご覧いただけます。

遊牧民からのメッセージ3.羊毛文化の源流を訪ねて~

3.道具としての毛織物。<キリム・ラグ・布の機能・用途>

『敷く』・・・・主に敷物として使われるキリム・メインラグ・フェルト

敷物―絨毯(毛足のある敷物)メインラグ…テントの中の主要な部分に敷かれる毛足のある敷物=絨毯。
テント内を飾るメインラグに対して,ギャッベ,ジュルヒュールやトゥルなどは野外やキャンプ用の敷布団として使われることも。
    -キリム(平織り)…テント内を広く覆うための敷物(綴れ織り,縫い取り織り,スマック織り,紋織り)等の技法がある。

遊牧民達は、移動という事が生活の基盤にあるので、トルクメンを除いてはあまり緻密で頑丈な絨毯を織ることは少ない。
タテ・ヨコ糸をが羊毛製の緩やかな結びのデプレスのあまりない絨毯を織る事が多い。デプレスの少ない絨毯は折畳むのも簡単で持ち運びが便利であるが、耐久性には少し欠けるが、破れた部分は補修して使い続け、ぼろぼろになるまで使い込まれる。

ツ黴€

ルルメインラグ パイルのある敷物

ツ黴€

ハザラ フェルト テント内の敷物

カシュガイ ギャベ

アラブ ジュルヒュール 屋外用敷物

アラブ トッル 毛足の長い敷物

ショシュタール キリム(綴れ織) 敷物

2.『祈る』祈祷用等に織られたキリム・ラグ・布 プレイヤーラグ(Prayer Rug)

祈祷用ラグ―プレイヤーラグと呼ばれるイスラム経のお祈りのために使われる小さめの絨毯やキリム。ほとんどが人ひとりがお祈り出来る小さめのもの。
移動用に持ち運ぶこともあるが、テント内の決まった位置に聖地を目指して敷かれる。
イラン~アフガンのバルーチ族、コーカサス地方の絨毯(ジャイナマーズ)や、
アナトリア東アイドゥン地方の綴れ織りのゼジャーデなどが有名である。
モスク(イスラム寺院)に敷かれる横長で何人もが同時に礼拝できるタイプもある(サフ)。

ベシール プレイヤーラグ (祈祷用絨毯)

タイマ二 スマック織り (祈祷用敷物)

塩入れ袋(ナマクダン)の話 その3.

しつこく塩入れの話を続けたいと思う。ある絨毯好きなから塩入れについて貴重なコメントを頂いた。 
「塩袋について・・・
牛は頑固で、なかなか人間の思う方向へ誘導できないそうですが、塩をご褒美にくれることが分かると言うことを聞くそうですよ。
中国の奥地で牛を誘導する際、目的地に着いたら(人間の)おしっこを与えるようにしたらとうまくコントロールできた、というのを小説で読みました。
牛はよっぽど塩分が欲しいんですね。羊やヤギも牛と一緒なのかなあ。
塩袋の口を動物に勝手に食べられてしまわない程度に狭めて、「おいでおいで」と誘導し、目的地に着いたら「ご褒美だよ」という形で家畜に与えるんでしょうね。
でも犬は、甘いものは好きだけれど、塩を欲しがるという話は聞いたことがないし、いったいどう違うのか……」 
目から鱗のエピソードでした。

バフティヤリー族 塩入れ袋

先日見て感動したバフティヤリー族のドキュメンタリー『GRASS』では牛も馬も、羊も、山羊もほぼ同じように移動していたし、同じように牧草を求めて移動が必要な家畜達だろう。おそらく草食動物は雑食の人間や犬などとは違い食物から塩分を吸収できないのではないだろうか?特に暑く乾いた気候の西アジア地域では夏に相当な塩分が必要になりそうだ。そういえばイスラム教の人々は雑食性の動物を食することを忌み嫌い、特に4つ足の動物は草食に限られた動物の肉しか食べないような気がする。
話がそれたが、おそらく塩&塩入れ袋とは塩分を欲しがる草食動物をコントロールするために遊牧生活には欠かせないモノであり、移動や遊牧の際にも携帯しているモノだろう。同時に入り口が細いのは鼻の長い草食動物から塩を守るために入り口が狭くなっている事も想像できる。
またそれではどのようにして持ち運ぶのかという疑問が出てくる。

クルド族 塩入れ袋

すべてではないが塩入れ袋の両肩部分からこのように紐がついているものがある。これはイラン~イラク~トルコ国境付近の山岳クルド族のモノで、イランではサンジャフクルドと呼ばれるどちらかというとイラクよりのクルド族が織ったもののようだ。欧米でもこのサンジャフもしくはJAFFKURDと呼ばれる山のクルドのサドルバックや塩入れは色彩のバランスと幾何学的文様がマッチして高い評価を受けている。

Bread&Salt Palviz Tanavoli

この本が出版される前はイラン各地のバザールでも結構な塩入れ袋を見つけることが出来た。しかしこの素晴らしいコレクションの本が出版されてから以降価格は高騰、同時の各部族のオリジナルの古い塩入れ袋はコレクションの対象となったのか、表(オープンマーケット)にはほとんど出てこなくなってしまった。一番初めに紹介したような逸品は原産地から直接、欧米のギャラリーやコレクターの手に渡ってしまったようだ。しかしこの本は特に塩入れ袋のコレクションが素晴らしい。建築家&彫刻家でもある才能豊かなイラン人部族絨毯研究家Palviz Tanavoli氏はおそらくイラン人ならではの強力なコネクションを利用して存在した塩入れの逸品を集めたのだろう。50点に近い見事な塩入れ袋が収集されている。ここでは紹介できないがこの本の中に先ほどの疑問『どうして塩入れを運ぶのか』の答えとなるような写真が載っていた。
そしてその秘密は肩口から出ている奇妙な形の紐にある。

シャーセバン族 キリム塩入れ袋

 

ホラサーンクルド 塩入れ袋


この2点の塩入れ袋に共通するのは、見ての通り袋の肩口から可愛らしい紐状のモノが突出している点である。上の写真はおそらくイラン北部のシャーセバン族らしき感じがするがよくわからない。塩がもれやすいのであまり使われない綴れ織り(キリム技法)の珍しいモノである。下の写真はおそらくホラサーン地方のクルド族トルクメニスタン国境に近いカラート周辺のものではないかと想像している。こちらはカラート地方の誇る緻密なブロケード(錦織りもしくは紋織り)によるモノである。両方に共通する肩口に残る紐状の突起は、この形状の袋を織るときに張られたタテ糸の残骸(使用しない部分)を、そのまま残したものと考えられる。ここでは構造分析を解りやすく説明できないが、遊牧民が袋状の織物を織る時は、表面と裏面を後で張り合わせるのでなく同じタテ糸上に続けて織り込み、半分から折り曲げて両端をかがって袋状にすることが、ほとんどである。

ルル塩入れ袋

 おそらく強度的にも、合理的にもその方がよさそうだ。ところが凸型の塩入れ袋ではいる入り口部分の両脇が(口上部両端)にヨコ糸を入れないためタテ糸がそのままふさふさと残ることになる。このタテ糸をまとめたり三つ編みしたようなものがよく見られる。Palviz Tanavoli氏の本の中にこの肩口から出た紐を重ね、重ねたタテ糸の真ん中に棒を通して天秤棒のようにバランスをとって肩からかけている遊牧民の姿があった。
ん~!これも目から鱗であったが、岩塩が入ってある程度の重量がある塩入れ袋の肩紐に棒を通すことで見事なバランスの天秤棒が出来上がり、両手を離しても肩から見事にぶら下がる仕組みとなっているようだ。それにどこにでも落ちている枝のような棒状のものさえあれば完成されるとは・・・・。

余ってしまった余分なタテ糸までも利用するとは!!! あらためて遊牧民の知恵と合理性には驚かされるのだ・・・。

塩入れ袋(ナマクダン)の話 その2.

塩入れ袋の機能については前回で紹介したが、文様などについてももう少し考察してみたい。その前に塩というモノは、人を含む動物にとってはとても大切なモノのようだ。特に山間部や内陸地域で貴重な交易品でもあった塩は、チベットなどでもかなり高価でたいへんな苦労をして高地まで運ばれたようだ。日本でも岩手県などの太平洋岸の海で取れた塩を北上山地の山を超えて内陸部に運ぶための「塩の道」があり、馬では越えられらい山道を牛に塩を運ばせたという「ソルトロード」が存在していてたらしい。日本中を歩きまわり「歩く巨人」と称えられた民俗学者宮本常一氏も塩の道という日本古来の交易のルートを調査されていたようだ。

ヴェラミン 塩入れ 表面


ヴェラミン 塩入れ 裏面


ヴェラミン 塩入れ 部分(首)


ヴェラミン 塩入れ 部分 キリム


このヴェラミン産の塩入れはこれまで扱った塩入れの中でも最もクオリティが高く状態、技術、価格すべてにおいてトップレベルであった。両面が柄違いの綴れ織りであったが、半分に折り曲げるのが難しいほど緻密で糸の撚りが強く、如何したらこれほど頑丈な織が出来るのか不思議なほど見事なものであった。

バフティヤリー ワギレ


バフティヤリー ワギレ


これも非常に珍しい塩入れ型のパイル(絨毯)の表皮である。大きさといい形状といいまさに、塩入れなのだが、デザイン的には塩入れにはあまりないデザインである。このタイプのデザインをイランではワギレと呼ぶ、のワギレといっても和布の切れ端、和切れとは違い絨毯のデザイン見本として織られた実物をカルトゥーン(絨毯の下絵)とは分類して呼ぶ呼び名である。この塩入れ形のデザインはまさにワギレ特有のもので白地の左側とした部分は絨毯のボーダーデザイン、右上の紺地の部分はフィールドのデザインが見本として織られている。色彩や文様からイラン西部のバフティヤリー族それもチャハールラング(四本足)と呼ばれる人たちの織る絨毯に近い風合いである。塩入れの入り口部分に表現された角のある4本足の動物も凛々しくてカッコイイ!

ホラサーンクルド 塩入れ袋

女性の顔の微妙な表情、龍と思しき動物の鱗文様など信じられないほどの細かさで綴られている。世界各地の神話に登場する竜蛇神と織姫(メリジューヌ)の物語を連想させるような絵画的表現だが、イランでこの絵について聞いたところ驚くほど似た伝説が日本にも伝えれていて、竜もしくは蛇と結婚した女性とその間に生まれたお姫様の物語が伝えられている。イランの友人に聞いたところ、顔を曇らせて話してくれたのだが、意味は半分以上不明ではあったが、なんだか悲しいお話のようだった。

ルル? 塩入れ袋 パイル


ルル? 塩入れ裏面


この塩入れもたいへんにユニークで見れば見るほど楽しくなる文様世界である。全体的にはボテッとした感じでギャベのような毛足の長いパイルなために柄もはっきりとしない。当然家紋のような象徴的な文様も表現されていないのでどの部族かも釈然としない。見るほどに不思議な味わいを感じるが、もしかしたら子供が織ったものかなどと想像していた。数年前に行った塩入を集めた展示会で壁に掛けようとした時、ふと上下を逆に見る機会があった。すると、なんと今まではまったく気づかなかった文様世界が見えてきた。このときはまさに「アハ体験」のような感動が脳裏を駆け巡った。

ルル? 塩入れ袋 パイル 上下逆

まず逆さにした本体の一番上の部分はなにやら王冠のような文様が中央にあり、その脇には人型のようなモチーフも見えてくる。次に塩入れの入り口と本体を繋ぐ部分の真ん中あたりにも動物のような形が見えてくる。とするとこの塩入れは上下逆に織られたのか、塩入れは袋の性格上入り口を上にしないと塩が全部出てしまうし・・・?如何考えても謎ばかりが増えてゆく部族絨毯の世界を象徴するかのような塩入れである。

まだまだ謎ばかりの部族絨毯(トライバルラグ)の世界だが、この謎々のような未知なる部分がどうしようもない程魅力的である。極めて特殊な塩入れ袋の中にもこれだけの多様性と神秘性を持つ部族の毛織物及び手仕事をこれからも追い求め紹介してゆきたい。

塩入れ袋(ナマクダン)の話 その1.

IMAGE0037namakdan.jpg BY kashuraian photo
塩入れ袋についてこれまでに書いた内容が思い出せない。このHPについている検索機能で調べて見たがきちんとまとめている記事は見当たらなかった。
塩入れ袋(ナマクダン)とは遊牧民に欠かせない袋物で、その名の通り塩(岩塩)を保存・保管する為の入り口が細い形状(凸形)の袋である。

No1.ルル塩入れ袋スマック織り 19世紀

上の塩入れはかなり初期に入手いたものでたいへんに気に入っていたモノだった。味わい深い文様がスマック織りで表現されていて、タテ糸が袋の肩口からそのまま出ていたのが印象的だった。後になってこの肩口からそのまま出ているタテ糸の残りが重要な意味を持つことになるのだが・・・。(現在は岩手県にあるはずだ)

 この塩入れに興味を持ち始めたのは、もうずいぶんと前で最初は何故このような形をしているのかわからなかった。素朴な疑問として何ゆえに入り口部分が細くなっているのかということ、イランでもなんとなく聞きそびれていた。
塩を入れる袋だということは知っていたが、この壺のような形状に何の意味が隠されているのかが、長い間の不思議であった。袋の入り口はどの袋も大きさの多少違うがほぼ人間の腕が入る程度の広さになっている。
展示会などで、冗談で「この袋は一体何を入れるものでしょうか?」世界不思議発見で~すのような、他愛無い会話もずいぶんしたように記憶している。そして不思議とその袋を手に取った人々の多くが何気なく、袋の入り口に手を突っ込んで試してみるような様子をされる。この袋を手にすると何故か袋に手を入れてみたくなるオーラが出ているように思えてくる。確かにこれまでに扱った塩入れ袋は長年の遊牧生活において繰り返し繰り返し手を入れて塩を取り出してきたのだろうと想像できる。

No.2.シャーセバン族 パイル19世紀 


No.2.シャーセバン塩袋の裏面

このパイルの塩入れもとても気に入っていたが、入手してあっという間に塩袋収集家のコレクションになってしまった。色合いといい、裏表の極端な違いといい、シャーセバン族にはめずらしい塩入れ袋といい、さらにそれがパイル構造という希少性といい、愚痴っぽくなってしまうが、とにかく気に入ったモノだった。

いくつかの塩入れ袋を見ているうちにふっと閃いたのだが、この塩の量は人が調理用に使用するには多すぎるのではないだろうか?どこの家にも調理用や漬物用など塩は必ずあるはずである。人は塩分をとらないと生きてはゆけない動物だからだ。かといって塩分を取りすぎると高血圧や様々な成人病の原因となるようで、盛んに「塩分控え目」などという広告を目にする。話がそれたが、遊牧民にとって塩とは人のみならず家畜のためにあるのではと閃いたのである。特に家畜である草食動物は肉や魚という塩分を含む食物を摂取しないため、食べ物からの塩分吸収が難しいらしい。そこで特に夏場などの暑い時期には塩分が大量に欲しくなるようだ。

No.3 ルル族? 塩入れ袋 パイル

 この塩入れもコレクターのところにあるが、30X50cmほどの小さなこの袋モノに、無限な広がりが感じられる気がするモノだった。この不均一な菱形文様の配列は一体何なのだろう。時々こういう頭では理解できないセンスに出会うことがある。

そこで遊牧民が大量に保管する塩は、動物にも時々与えられ同時に動物をコントロールするのにも使用されるのではないだろうか?という推測でああった。となるとこの入り口が細くなっている凸形は動物の口が簡単に入らないような、家畜である馬やロバ、羊、山羊、ラクダなどから塩を守るためにあるのではという考えが降りて来た。この「アハ体験」のような直感がこの塩入れ袋に対する「思い入れ」をさらに強くした。

No.4ブーラフィー族 塩袋 紋織り

 この塩入れもたいへんに個性的な表情をしている。塩入れ本体もさることながらこの過剰な装飾品の紐と毛房飾りのため、かなりの重量感がある。見た目にもおどろおどろしい雰囲気をかもし出している。これも絨毯織りを趣味とする、マニアック℃かなり高めの方の玄関の魔除け飾りとなっているらしい。

この塩入れ袋たちは、まさに遊牧民に必要不可欠な塩を家畜から守り、それ自体が魔除け(御神体)的な意味を成すようにも思えてくる・・・。 つづく

馬の座布団カバー

時として遊牧民はこんなものまで絨毯を織んだ。と驚かされることがある。そのひとつがこの馬の鞍に掛ける座布団用の絨毯である。

 これはアフガニスタン北部のトルクメン族のもので、通称スレイマンギュルと呼ばれるバランスのとれた部族の紋章のようなモチーフを真ん中にデンと織り込んでいる。

この『馬の鞍に掛ける座布団用の絨毯』の特徴は上の部分はまっすぐで下の方が丸く曲線を使うか角を斜めに八角形のした部分のようなフォルムをしている。

ものによってはフリンジを後で付けて馬の背にかかった時に、美しく垂れるように凝っているものもある。もうひとつの特徴は、馬の鞍から滑り落ちないように、鞍の前方の突起部分(名前がわからない)に引っ掛ける為に切り込みを入れてある。

あまり、多くは見たことがないがそれぞれの部族がその部族の特徴を現す色彩や文様でこの50X50cmほどの座布団を完成させている。

これはホラサーン地方のクルド族のもので、ピンク・紫・黄色・水色などの
比較的淡い色合いで構成され、部分的に濃紺を使うことで全体が引き締まっている。


これは、大好きなタイマニ族のもので、タイマニらしいモチーフが織り込まれているが、これもタイマニらしく途中までで終わっていてユニークだ。
これもおそらくタイマニ族のもの緩やかな色彩とシンプルなモチーフの繰り返しだが、タイマニらしい味わいを持っている。

これはホラサーン地方のクルド族のものと思うが、良くわからない。クルド族に四角に囲まれた花?様なモチーフの絨毯を見たことがある気がする。

そしてこれは、トルクメン族のフエルト製の馬の座布団カバーだ。生成りのフエルト地のトルクメンらしいチューリップ(チルピイ)柄の刺繍が施されていて可愛らしい。
それにしても部族の人達は、どうしてこれでもかというほどに毛織物にこだわるのだろう。移動生活という多くのものを所有できない生活環境のなか、ありとあらゆるものを自分たちの手で作り上げる。特にこんな『馬の座布団カバー』のような売り物にはならないようなものを見ると愛らしくついつい欲しくなってしまうのだ。

これは以前にも紹介したが、最もお気に入りのタイマニ族のフェルト製馬の座布団カバー。この色彩のセンスとモチーフの可愛らしさにがTribal Rugの醍醐味だ。
ちなみに、この『馬の座布団カバー』をトルクメン絨毯コレクターのM氏は数十枚コレクションしている。いつか紹介してもらいたいと思っている。
      

コーカサスの祈祷用絨毯

以前『旅と絨毯とアフガニスタン』のブログでも紹介されていた、コーカサスの祈祷用絨毯はどの地域においても美しい特色を持つことで知られている。
以前に紹介したシルバン地域のMarasaliのものはその代表とも言えるものだ。


Shirvan Marasali E.Helman コレクション

Marasaliの一つの特徴でもある黒字にボテ(ペーズリー)文様と中央部のジグザグモチーフが印象的である。

これも同じShirvan地域のものであるが、こちらは白地のフィールドを持つタイプとして分類されている。また、中央のモチーフは尖ったエッジを持つ葉模様として、17~18世紀のDoraganカーペットなどとの関連性あげている研究者(Ian Bennett)もいる。

そのほかでは絨毯でも有名なKarabaghにも見事なものがある。


この絨毯はアンティークコレクションクラブから出ているORIENTAL RUGシリーズのVolume1 『CAUCASIAN』の裏表紙を飾っている。ドイツのアンティーク絨毯の老舗Frants Bausbackコレクションとなっている。

こちらはKuba地域で織られたもの。


コーカサス絨毯のいくつかの代表的産地であるKUBAはダゲスタンの南、Shirvanからも近い地域で『CAUCASIAN』の著者Ian Bennett氏もShirvanのものかKubaのものなのか分類に迷っているようだ。それほど珍しく変わった色調とフォルムを持つもののようだ。よくよく見てみると中央フィールドの樹のようなモチーフが一つづつ異なりどれもがとてもユニークである。コーカサスの祈祷用絨毯は織られる地域により、それぞれに特徴をもっているが共通して見られるのはミフラーブの部分の造形ではないだろうか?
バルーチ族などに見られる凸形の先端部分が三角形で上に尖っていて、その部分がボーダーのように小さなモチーフで飾られている。

Akstafa産のものなどの一部に凸型のものも見られるが多くは、先端部が尖っている。いつかその造形的な形状から民族や部族の嗜好や民族性などに迫ってみたい・・・。

《参考文献》Oriental Rug Vol.1 Antique Collection
コーカサス絨毯は『CAUCASIAN』からの引用。

祈祷用絨毯考-Ⅴ

祈祷用絨毯は『お祈り』という、イスラム教の教義に欠かせない宗教行為に欠かせないものとしてイスラム教を信じる地域で大切に織り続けて来られた絨毯に間違いないものなのだろう。実際にオリエント地域に現在残る数々の素晴らしい祈祷用絨毯のなかに、世界的に評価の高い祈祷用の絨毯がある。

●アナトリア地方のLadicの祈祷用絨毯(トランシルベニアなどに残るもの)



●コーカサス地方のシルバン地域のMarasaliプレイヤーラグ


●トルクメン族のエルサリ系Besirと呼ばれる祈祷用絨毯

●バルーチ族TaimuriのDokhter-e-Qaziとして知られる祈祷用絨毯

●ペルシアのミフラーブ文様。


●アナトリアのSafuと呼ばれる集団礼拝用のキリムやラグ



などなど数えればきりないほど素晴らしい祈祷用の絨毯やキリムが織られてきた。

これらには、共通に聖地の方向を示す文様と寺院そのものといえる文様が表現されている。また、ファテイマの手や様々な魔除け的な意味合いを持つといわれるモチーフが多い。同時にその地域や民族・部族が伝統的に守り続けてきたと思われる独自なものも見られる。これはイスラム以前から面々と残る各々の地域や部族の独自性であり、それらが同じ祈祷用の絨毯の中にこれだけの多様で興味深い象徴的文様として表現されてきたのではないか・・・。<今後これらの祈祷用絨毯を少しずつ紹介していければと思う。