塩入れ袋の機能については前回で紹介したが、文様などについてももう少し考察してみたい。その前に塩というモノは、人を含む動物にとってはとても大切なモノのようだ。特に山間部や内陸地域で貴重な交易品でもあった塩は、チベットなどでもかなり高価でたいへんな苦労をして高地まで運ばれたようだ。日本でも岩手県などの太平洋岸の海で取れた塩を北上山地の山を超えて内陸部に運ぶための「塩の道」があり、馬では越えられらい山道を牛に塩を運ばせたという「ソルトロード」が存在していてたらしい。日本中を歩きまわり「歩く巨人」と称えられた民俗学者宮本常一氏も塩の道という日本古来の交易のルートを調査されていたようだ。

ヴェラミン 塩入れ 表面


ヴェラミン 塩入れ 裏面


ヴェラミン 塩入れ 部分(首)


ヴェラミン 塩入れ 部分 キリム


このヴェラミン産の塩入れはこれまで扱った塩入れの中でも最もクオリティが高く状態、技術、価格すべてにおいてトップレベルであった。両面が柄違いの綴れ織りであったが、半分に折り曲げるのが難しいほど緻密で糸の撚りが強く、如何したらこれほど頑丈な織が出来るのか不思議なほど見事なものであった。

バフティヤリー ワギレ


バフティヤリー ワギレ


これも非常に珍しい塩入れ型のパイル(絨毯)の表皮である。大きさといい形状といいまさに、塩入れなのだが、デザイン的には塩入れにはあまりないデザインである。このタイプのデザインをイランではワギレと呼ぶ、のワギレといっても和布の切れ端、和切れとは違い絨毯のデザイン見本として織られた実物をカルトゥーン(絨毯の下絵)とは分類して呼ぶ呼び名である。この塩入れ形のデザインはまさにワギレ特有のもので白地の左側とした部分は絨毯のボーダーデザイン、右上の紺地の部分はフィールドのデザインが見本として織られている。色彩や文様からイラン西部のバフティヤリー族それもチャハールラング(四本足)と呼ばれる人たちの織る絨毯に近い風合いである。塩入れの入り口部分に表現された角のある4本足の動物も凛々しくてカッコイイ!

ホラサーンクルド 塩入れ袋

女性の顔の微妙な表情、龍と思しき動物の鱗文様など信じられないほどの細かさで綴られている。世界各地の神話に登場する竜蛇神と織姫(メリジューヌ)の物語を連想させるような絵画的表現だが、イランでこの絵について聞いたところ驚くほど似た伝説が日本にも伝えれていて、竜もしくは蛇と結婚した女性とその間に生まれたお姫様の物語が伝えられている。イランの友人に聞いたところ、顔を曇らせて話してくれたのだが、意味は半分以上不明ではあったが、なんだか悲しいお話のようだった。

ルル? 塩入れ袋 パイル


ルル? 塩入れ裏面


この塩入れもたいへんにユニークで見れば見るほど楽しくなる文様世界である。全体的にはボテッとした感じでギャベのような毛足の長いパイルなために柄もはっきりとしない。当然家紋のような象徴的な文様も表現されていないのでどの部族かも釈然としない。見るほどに不思議な味わいを感じるが、もしかしたら子供が織ったものかなどと想像していた。数年前に行った塩入を集めた展示会で壁に掛けようとした時、ふと上下を逆に見る機会があった。すると、なんと今まではまったく気づかなかった文様世界が見えてきた。このときはまさに「アハ体験」のような感動が脳裏を駆け巡った。

ルル? 塩入れ袋 パイル 上下逆

まず逆さにした本体の一番上の部分はなにやら王冠のような文様が中央にあり、その脇には人型のようなモチーフも見えてくる。次に塩入れの入り口と本体を繋ぐ部分の真ん中あたりにも動物のような形が見えてくる。とするとこの塩入れは上下逆に織られたのか、塩入れは袋の性格上入り口を上にしないと塩が全部出てしまうし・・・?如何考えても謎ばかりが増えてゆく部族絨毯の世界を象徴するかのような塩入れである。

まだまだ謎ばかりの部族絨毯(トライバルラグ)の世界だが、この謎々のような未知なる部分がどうしようもない程魅力的である。極めて特殊な塩入れ袋の中にもこれだけの多様性と神秘性を持つ部族の毛織物及び手仕事をこれからも追い求め紹介してゆきたい。

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