しつこく塩入れの話を続けたいと思う。ある絨毯好きなから塩入れについて貴重なコメントを頂いた。 
「塩袋について・・・
牛は頑固で、なかなか人間の思う方向へ誘導できないそうですが、塩をご褒美にくれることが分かると言うことを聞くそうですよ。
中国の奥地で牛を誘導する際、目的地に着いたら(人間の)おしっこを与えるようにしたらとうまくコントロールできた、というのを小説で読みました。
牛はよっぽど塩分が欲しいんですね。羊やヤギも牛と一緒なのかなあ。
塩袋の口を動物に勝手に食べられてしまわない程度に狭めて、「おいでおいで」と誘導し、目的地に着いたら「ご褒美だよ」という形で家畜に与えるんでしょうね。
でも犬は、甘いものは好きだけれど、塩を欲しがるという話は聞いたことがないし、いったいどう違うのか……」 
目から鱗のエピソードでした。

バフティヤリー族 塩入れ袋

先日見て感動したバフティヤリー族のドキュメンタリー『GRASS』では牛も馬も、羊も、山羊もほぼ同じように移動していたし、同じように牧草を求めて移動が必要な家畜達だろう。おそらく草食動物は雑食の人間や犬などとは違い食物から塩分を吸収できないのではないだろうか?特に暑く乾いた気候の西アジア地域では夏に相当な塩分が必要になりそうだ。そういえばイスラム教の人々は雑食性の動物を食することを忌み嫌い、特に4つ足の動物は草食に限られた動物の肉しか食べないような気がする。
話がそれたが、おそらく塩&塩入れ袋とは塩分を欲しがる草食動物をコントロールするために遊牧生活には欠かせないモノであり、移動や遊牧の際にも携帯しているモノだろう。同時に入り口が細いのは鼻の長い草食動物から塩を守るために入り口が狭くなっている事も想像できる。
またそれではどのようにして持ち運ぶのかという疑問が出てくる。

クルド族 塩入れ袋

すべてではないが塩入れ袋の両肩部分からこのように紐がついているものがある。これはイラン~イラク~トルコ国境付近の山岳クルド族のモノで、イランではサンジャフクルドと呼ばれるどちらかというとイラクよりのクルド族が織ったもののようだ。欧米でもこのサンジャフもしくはJAFFKURDと呼ばれる山のクルドのサドルバックや塩入れは色彩のバランスと幾何学的文様がマッチして高い評価を受けている。

Bread&Salt Palviz Tanavoli

この本が出版される前はイラン各地のバザールでも結構な塩入れ袋を見つけることが出来た。しかしこの素晴らしいコレクションの本が出版されてから以降価格は高騰、同時の各部族のオリジナルの古い塩入れ袋はコレクションの対象となったのか、表(オープンマーケット)にはほとんど出てこなくなってしまった。一番初めに紹介したような逸品は原産地から直接、欧米のギャラリーやコレクターの手に渡ってしまったようだ。しかしこの本は特に塩入れ袋のコレクションが素晴らしい。建築家&彫刻家でもある才能豊かなイラン人部族絨毯研究家Palviz Tanavoli氏はおそらくイラン人ならではの強力なコネクションを利用して存在した塩入れの逸品を集めたのだろう。50点に近い見事な塩入れ袋が収集されている。ここでは紹介できないがこの本の中に先ほどの疑問『どうして塩入れを運ぶのか』の答えとなるような写真が載っていた。
そしてその秘密は肩口から出ている奇妙な形の紐にある。

シャーセバン族 キリム塩入れ袋

 

ホラサーンクルド 塩入れ袋


この2点の塩入れ袋に共通するのは、見ての通り袋の肩口から可愛らしい紐状のモノが突出している点である。上の写真はおそらくイラン北部のシャーセバン族らしき感じがするがよくわからない。塩がもれやすいのであまり使われない綴れ織り(キリム技法)の珍しいモノである。下の写真はおそらくホラサーン地方のクルド族トルクメニスタン国境に近いカラート周辺のものではないかと想像している。こちらはカラート地方の誇る緻密なブロケード(錦織りもしくは紋織り)によるモノである。両方に共通する肩口に残る紐状の突起は、この形状の袋を織るときに張られたタテ糸の残骸(使用しない部分)を、そのまま残したものと考えられる。ここでは構造分析を解りやすく説明できないが、遊牧民が袋状の織物を織る時は、表面と裏面を後で張り合わせるのでなく同じタテ糸上に続けて織り込み、半分から折り曲げて両端をかがって袋状にすることが、ほとんどである。

ルル塩入れ袋

 おそらく強度的にも、合理的にもその方がよさそうだ。ところが凸型の塩入れ袋ではいる入り口部分の両脇が(口上部両端)にヨコ糸を入れないためタテ糸がそのままふさふさと残ることになる。このタテ糸をまとめたり三つ編みしたようなものがよく見られる。Palviz Tanavoli氏の本の中にこの肩口から出た紐を重ね、重ねたタテ糸の真ん中に棒を通して天秤棒のようにバランスをとって肩からかけている遊牧民の姿があった。
ん~!これも目から鱗であったが、岩塩が入ってある程度の重量がある塩入れ袋の肩紐に棒を通すことで見事なバランスの天秤棒が出来上がり、両手を離しても肩から見事にぶら下がる仕組みとなっているようだ。それにどこにでも落ちている枝のような棒状のものさえあれば完成されるとは・・・・。

余ってしまった余分なタテ糸までも利用するとは!!! あらためて遊牧民の知恵と合理性には驚かされるのだ・・・。

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